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【第47回】せん妄①:総論

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身体科の先生にもぜひ読んで頂きたいです!

こんにちは、Dr. KKです。

今回は、精神科が総合病院で最も他科からご相談を受けるせん妄についてご紹介したいと思います。

 

せん妄とは何なのか、せん妄は何が原因か、せん妄にさせないためには何を行うべきか、せん妄治療には何の薬剤が有効か、などを簡単にご紹介させて頂きます。

 

せん妄は医療費や入院期間、死亡率にかなり影響を及ぼす事が分かっており、せん妄の予防や治療は非常に重要な分野と言えます。

また、少しでもせん妄についてついて知って頂く事によって、精神科の仕事も減るというWin-Winな内容になっていると、勝手に思っております(笑)

 

(1)せん妄とは?

まずはDSM-5にて、せん妄の診断基準を見てみます。

A:注意及び意識の障害

 →注意の方向づけ・集中・維持・転換する能力の低下、

  環境に対する見当識・状況理解の低下

 

B:変動性

 →急性発症(数時間〜数日)、元々の注意・意識からの変化、日内変動

 

C:認知・知覚の障害

 →記憶障害、見当識障害、視空間認知・知覚の障害(幻覚)

 

D:AとCが他の神経認知障害認知症など)ではなく、昏睡のような著しい覚醒水準の低下によって生じているものではない

 

E:その障害がなんらかの医学的疾患、物質中毒または離脱、毒物への暴露、または複数の病因によって引き起こされたという証拠がある

横断的診断だと、急性発症や日内変動、意識・注意・認知・見当識・記憶・幻覚の障害などが典型的症状と言えます。

 

臨床的に考えると、せん妄の本体は意識障害です

もう少し詳細に言えば、軽度の意識混濁や意識変容といった所でしょうか。

 

原因としては、身体的・薬剤的要因がメインで、他にも器質的障害など脳の脆弱性も挙げられます。

つまり、全身状態不良であれば誰でもせん妄になり得ますし、入院中に医師が処方した薬剤によって生じている事もあり得るという事です。

 

せん妄になると治療同意が得られなくなる事も多く、困っている先生方も少なくないかと思われますが、その原因を作っているのは自分自身ということがあるのです…

よってせん妄になった際は、その原因検索が重要になってきます。

 

 

※ 因みに、全身状態が著しく悪い状態で、

「せん妄です。併診お願いします。」

とよくコンサルテーションを受けるのですが、正直言って改善はあまり見込めません。

 

CRP≧30といった重症感染状態にも関わらず、

「せん妄→精神科が何とかしてくれる」というのは、かなり厳しい注文です。

抗精神病薬は万能薬ではありません。

 

僕らでも、CRP≧30になったらここがどこか分からなくなるほど、意識もボーッとすると思います。

それを治す方法は全身状態の治療しかありません。

 

(2)せん妄の疫学

まず、65歳以上の入院患者の11〜42%にせん妄が起こり得るという報告があります。

(Siddiaqi N.,et al. Age Ageing. 2006)

 

術後せん妄となると、約半数の患者にせん妄を認め、ICU患者の約8割がせん妄を呈するそうです。

(APA. Practice guideline for the treatment of patients with delirium, 1999)

(Ely EW., et al. JAMA, 2004)

かなり高い割合で起こっていますね。

 

せん妄には低活動型せん妄という状態があり、このタイプだと不穏行動はあまり目立たないためせん妄と判断されず、せん妄の治療が行われていない事が多いです。

不穏行動が見られないと医師や看護師も困る事が少なく、精神科へコンサルテーションする事にならないためです。

 

しかし、せん妄改善後に本人に聴取すると、せん妄時の記憶は部分的に残存しているようで、かなり辛い経験である事も判明しています。

意識障害を呈している患者においては、まずはせん妄を疑って下さい

 

(3)せん妄の原因

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せん妄はよく火災に例えられます。

せん妄の原因は直接因子、誘発因子、準備因子の3つに分類されます。

 

① 直接因子

火災でいう所の火種です。

「直接因子=せん妄を直接引き起こす原因」

に該当します。

 

せん妄になりうる決定的な因子ですが、よく見てみると全て医師の介入が原因になることが分かると思います。

 

まず、身体疾患の治療が不十分であれば、当然せん妄になります。

よくある原因としては、

・高Ca血症や低Na血症といった電解質異常

・肝機能異常や腎機能異常などの臓器不全

・脱水や貧血

・炎症や低栄養状態

・頭蓋内病変(脳血管障害、頭部外傷、脳腫瘍、脳炎)や低酸素脳症

・手術

が挙げられます。

手術が原因とか、もはやどうしようもないですが、手術をしたのであればしっかり管理する必要があるという事です。

 

これまた愚痴になりますが、電解質異常を見逃した状態で

「せん妄です。併診お願いします。」

というコンサルテーションを受けた事があります。

 

「Na 120 mEq/Lとか、そりゃあせん妄になるやろ…」

と思いながら、

電解質補正を行なってみて下さい」

と優しく返答しておきました(笑)

 

次に、せん妄の原因となる薬剤としては以下のようなものが挙げられます。

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かなり多種に渡ります。@みどり病院

この中でオピオイド、抗コリン薬、抗パーキンソン薬、ステロイドベンゾジアゼピン系、H2-blockerであり、特に厄介なのはステロイドでしょうか。

 

ステロイドはせん妄以外にもステロイド性精神病といったその他の精神症状を呈する事が多く、かと言って治療には絶対欠かせない事も少なくなく、仕方なくオランザピンで鎮静をかけていくしかない時があります。

 

個人的には、ステロイドによる精神症状の治療はまだまだ得意ではありません…

 

せん妄リスクとなる薬剤に関しては病棟薬剤師が逐一確認し、主治医やリエゾンチームへ減量・変薬を提案していくのがベストな形かと思います。

 

② 誘発因子

火災でいう所のガソリンです。

火に油を注げば、そりゃあせん妄もひどくなります

「誘発因子=せん妄を起こしやすくする原因」

に該当します。

 

しかしこれもまた、医療側による原因として考えるべきでしょう。

 

上図を参照して頂ければ分かるかと思いますが、点滴やドレーンといった我々の管理上の都合で行っている医療行為や、疼痛や便秘といった我々の身体管理不足や、病室環境によるストレスなど、よくよく考えてみれば防げる因子も沢山あると思います。

 

③ 準備因子

火災でいう所の薪です。

火が広がる土台がなければ火災は成り立ちません。

「準備因子=せん妄のなりやすさ(脳の脆弱性)」

に該当します。

 

これだけは患者側に要因があると言えるでしょう。

しかし、高齢であることや認知機能低下、頭部疾患の既往など仕方のない部分も多いです。

 

(4)せん妄の対策

原因から考えられる対策方法ですが、最も重要な因子はやはり直接因子です。

これを減らすことも重要ですが、今以上に増やさないことが治療の根幹になります

 

つまりせん妄予防に十分配慮した睡眠薬の選択が重要という事です。

せん妄に関する薬物療法については次回ご説明致します。

 

誘発因子に対しては、せん妄を起こしやすくなる環境の調整がメインなので、せん妄予防となる非薬物療法(ケア、せん妄リハなど)が有効とされています。

 

準備因子に対しては、患者のポテンシャルである部分が大きいため、なかなか治療介入できる部分は少ないですが、「せん妄ハイリスク」として評価し、早期対応を行うべく医療側で共有しておく事が重要になります。

 

(5)まとめ

せん妄は頻出疾患でありながら、正しい治療介入がなされていない事が少なくありません。

しかしせん妄症例の多くは改善が望める事も事実です。

次回は精神科が勧めるせん妄への薬物療法について考えていきます。