【第48回】せん妄②:薬物療法
こんにちは、Dr. KKです。
今回は前回に続き、せん妄の薬物療法について考えていこうと思います。
せん妄の症状や原因については前回の記事をご参照下さい。
(1)せん妄予防のための睡眠薬
まずは、せん妄予防の観点から見た睡眠薬の選択について考えていきます。
前回の記事でも書きましたが、BZ系睡眠薬はせん妄の原因となるため、精神科医以外は全例出さないようにするのが良いと思います。
BZ系といった副作用も少なく、かつせん妄予防作用を期待して使用するのであれば、メラトニン受容体作動薬であるラメルテオン(ロゼレム)や、オレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサント(ベルソムラ)、レンボレキサント(デエビゴ)が安心して使用できるかと思います。
① ラメルテオン(ロゼレム)
メラトニン受容体作動薬なので、概日リズムを整えるという作用で入院環境での昼夜逆転を予防する効果が期待できます。
ただ、不眠症を一気に改善させるような薬剤ではないので、副作用は非常に少ないですが、その分効果も少ないため、頓用には向いていません。
入院初日から投与開始、などの使い方が良いかと思います。
② スボレキサント(ベルソムラ)
オレキシン受容体拮抗薬は覚醒維持を抑制するもので、自然な入眠作用を期待できます。
またBZ系と違って、依存性が非常に低い薬剤なので、安心して使用できます。
デエビゴは重度肝障害患者への投与禁忌となっていますが、ベルソムラは慎重投与であるため一応使用可能となっています。
デメリットとして、ベルソムラは粉砕不可であるため微調整が難しく、また胃管投与にも向いていません。
また、レム睡眠が増加することにより悪夢を見る人がいます。
使用前に念のため悪夢についてお伝えしておくのがベターでしょう。
③ レンボレキサント(デエビゴ)
デエビゴはベルソムラよりもオレキシン2受容体拮抗作用が強く、ベルソムラよりも催眠作用が強いとされています。
また、粉砕が可能なので投与量の微調整がしやすく、胃管投与も可能です。
デメリットとして、作用時間が長いため、日中に持ち越すリスクがあることと、重症肝障害の患者には使えないということくらいでしょうか。
個人的にはデエビゴを基本軸とし、デエビゴが使いづらい症例でベルソムラを代用しています。
※因みに、その他の選択肢として抗うつ薬に分類されるトラゾドン(レスリン、デジレル)と非BZ系に分類されるエスゾピクロン(ルネスタ)があります。
ただ、個人的にはトラゾドンをせん妄ハイリスクに使用すると易怒性が高まっているような印象があり、非BZであるルネスタは筋弛緩作用が弱めでBZよりも依存性は低いですが、健忘や認知機能低下は生じるため、結局せん妄をせん妄を惹起している印象があります。
これら2剤はせん妄リスクの低い患者(若年者や検査入院など)に使用するのはアリかと思います。
せん妄リスクが高い患者には、基本的に上記3剤で良いかと思います。
④ ハロペリドール(セレネース)
抗精神病薬であるセレネースですが、臨床的に内服不可の患者が不眠を訴えた際に使用する先生もいらっしゃるかと思います。
しかし、セレネースはあくまで不穏になった患者を鎮める静穏作用がメインであり、夜間に落ち着かせることで入眠しているだけであり、鎮静作用は弱いです。
とはいえ、静注できる睡眠薬はないため、内服困難な場合はセレネースを選択せざるを得ない状況です。
また、セレネースはかなり古い薬剤であり、静穏作用が強い一方で副作用(抗コリン作用、EPS、循環器症状など)も強いため、使用時は呼吸・循環モニターを使用することを強く推奨します。
セレネースで寝てくれるからと言って、毎日使っていると非常に高い確率で薬剤性パーキンソニズムを生じる可能性があるため、漫然と使用することは避けて頂きたいです。
※パーキンソニズムの原因となるということは、当然パーキンソン病患者には禁忌となる薬剤であることに留意して頂きたいです。
(2)せん妄リスクを配慮した不眠時指示
以上より、不眠時指示はある程度選択肢が限られると思います。
以下の提案はあくまで個人的なものなので悪しからず…。
① せん妄ハイリスク患者:入院初日から開始
ロゼレム 8mg 1錠 1×就寝前
② 内服可能:せん妄リスクあり
デエビゴ 5mg 1錠 1日2回まで
③ 内服可能:せん妄リスクなし
ルネスタ 1mg 1錠 1日2回まで
④ 内服不可:セレネース0.5A
+生食 100mL 1日2回まで
(呼吸・循環モニター管理、入眠止め、覚醒再開)
(3)不穏となったせん妄に対する薬物療法
次に不穏となった際に使用できる薬剤について考えていこうと思います。
不穏時は抗精神病薬で鎮静をかけていく事が基本方針となります。
ただ、せん妄の薬物療法に関する有用な研究は乏しい状況です。
やはり、せん妄となる患者に対して、侵襲の強い薬剤を選択する研究は行いづらいということでしょうか…。
日本では、臨床現場での使用頻度を考慮して、
・クエチアピン(セロクエル)
・リスペリドン(リスパダール)
・ペロスピロン(ルーラン)
の4種類が、医療保険審査で使用を認められています。
① クエチアピン(セロクエル)
MARTAという種類の非定型抗精神病薬ですが、せん妄による不穏を抑制する程度の静穏作用を持ち、また抗精神病薬によって生じうる副作用が少ないというメリットがあります。
眠剤として使用できるほど鎮静作用が強いのも、せん妄との相性が良い薬剤と言えるでしょう。
加えて、細粒タイプもあり微調整しやすいため、高齢患者にも使用しやすい薬剤です。
デメリットとして糖尿病患者には使用禁忌なのが、かなり痛いです。
よって、糖尿病を持ってない患者の第一選択として挙げられます。
② リスペリドン(リスパダール)
SDAという種類の非定型抗精神病薬ですが、クエチアピンよりも静穏作用が強いため、不穏が強い患者に適応があります。
また、糖尿病患者にも使用可能という部分でクエチアピンと一線を画していると言えるでしょう。
加えて、液状タイプもあるため、患者の口腔内に入れやすいというメリットもあります。
デメリットとして、肝障害・腎障害患者には使用しづらく、またクエチアピンと違って錐体外路症状(EPS)、循環器症状(不整脈や起立性低血圧など)、悪性症候群などの副作用リスクが高いのは留意しておく必要があります。
よって、糖尿病患者の第一選択としています。
とは言え、鎮静作用はそこまで強くないので、リスペリドンのみでせん妄患者を寝かせるのは難しいと思います。
③ ペロスピロン(ルーラン)
ルーランもSDAという種類の非定型抗精神病薬なのですが、リスペリドンよりも静穏作用が弱く、副作用も弱いということです。
個人的には、ルーラン程度では暴言暴力行為がみられるような強い不穏は抑制できない印象です。
よって小柄な高齢女性で、夜間やや焦燥感が高まっていたり、やや疎通困難となった場合に使用するのはアリかと思います。
(4)せん妄による不穏時指示
以上より、不穏時指示もある程度選択肢が限られると思います。
こちらも、あくまで個人的なものなので悪しからず…。
① 内服可能:糖尿病あり
クエチアピン 25mg 1錠 1日2回まで
② 内服可能:糖尿病なし
リスペリドン液 0.5mg 1包 1日2回まで
③ 内服不可1:セレネース 1A
+生食 100mL 1日2回まで
④ 内服不可2:セレネース+アタラックスP 各1A
+生食 100mL 1日2回まで
+生食 100mL 1日2回まで
(呼吸・循環モニター管理、入眠止め、覚醒再開)
ここで新しく出た薬剤でアタラックスPとサイレースというものがありますが、これらは抗精神病薬ではなく、それぞれ抗ヒスタミン薬とBZ系です。
いずれもせん妄リスクとなるため、基本的に単剤投与は行わないようにしていますが、先述したようにセレネースには鎮静作用がないため、より入眠させる効果を強めるためにもこれらの薬剤を混ぜるのが有効です。
いわゆる「セレアタ」、「セレサイ」と略されて使用されているかと思います。
BZ系であるサイレースはアタラックスPよりも催眠作用が強い一方で、当然呼吸抑制作用が強いため、安全性を考慮すればセレネース+アタラックスPを先に使用する方が良いかと思われます。
これらはあくまで基本方針ですので、全身状態や患者の持つリスクの程度によって用量調整を行います。
ここだけの話、副作用が見られると、真っ先に抗精神病薬が被疑薬にされる事が多いので、なるべく少量投与から開始したいところです。
(5)まとめ
以上がせん妄で使用する薬剤の基本的な方針ですが、この他にも糖尿病も腎障害も持っている患者にクロルプロマジン(コントミン、ウインタミン)を使用したり、ステロイドなどにより精神病症状が強い患者に対してはオランザピンを使用するなど若干マイナーな戦略をとる場合がありますが、その辺は精神科へのコンサルテーションでお任せ頂けたらと思います。
基本的には、「せん妄予防が先決」という考え方で大丈夫だと思います。