【第64回】電気けいれん療法①:総論
こんにちは、Dr. KKです。
今回は電気けいれん療法の総論についてまとめようと思います。
電気けいれん療法は英語でECT(Electro-Convulsive-Therapy)と略すので、以下ECTと表記させて頂きます。
(1)ECTの歴史
ECTは頭部に短時間通電し、人工的な痙攣を生じさせることで精神症状を改善させる治療法です。
実は、ECTの開発までの道のりは激動でした。
1930年以前から、統合失調症患者がてんかん発作を生じると、精神症状が一時的に改善するということが臨床的に分かっていました。
そこから、
「けいれんが統合失調症に効く」
という仮説が生まれました。
1930年代にけいれん誘発剤によって精神症状の改善がみられたのですが、誘発剤ではけいれんを確実に起こせなかったため、代替手段が考えられました。
その際に考えられたのが、マラリア療法やインスリンショック療法です。
マラリアに感染させて高熱を出させることで熱性けいれんを起こさせます。
これによって確実にけいれんが起こせるようになったのですが、いかんせん死亡率が高かったため、
「もう直接脳に通電したら良くない?」
という考えが生まれました。(1938年、Celetti、イタリア)
こうして生まれたのが、ECTです。
しかし、当時のECTは麻酔や筋弛緩薬を使用していませんでした。
それにより患者に恐怖感を与え、また全身けいれんによる骨折や呼吸器・循環器系の副作用が見られたため、徐々にECTの悪評が広まってしまいました。
そんな時、世界初の抗精神病薬であるクロルプロマジンが発売されました(1952年)。
「薬物療法で良くなるのなら、もうECTはやらない方が良いのでは?」
と不要論が広まり、ECTは一時的に廃れてしまいました。
しかし徐々に
「薬物抵抗性の統合失調症患者にもECT有効例がある」
ということが判明しました。
また、静脈麻酔薬や筋弛緩薬を使用することで、これまでのデメリットを払拭する事が出来ました。
こうして現在の修正型ECTに進化していったのです。
※現在はサイン波からパルス波に変更することで、より少ない電気量で発作誘発が可能になったのですが、あまりに専門的なので省略します。
(2)ECTの作用機序
まず事実として、未だになぜECTが有効なのかは解明できていません。
よって、今から挙げるものは全て仮説に過ぎません。
1. けいれん発作時に脳血流・脳代謝が増加している
→脳画像研究で、これらが増加していることは分かっています。
2. 抑制系の神経伝達物質であるGABAが増加している
3. モノアミンやコルチゾールといった物質が変化する
4. 血中脳由来神経栄養因子(BDNF)が増加し抑うつ症状が軽減する
5. 海馬での神経新生が促進する
→こちらも動物実験で証明されています。
⑥ 異常な機能的結合をリセットし、正常な機能的結合の生成を促進する
→僕はこれが一番有力なんじゃないかと思っています。
(3)適応疾患・適応条件
適応疾患となるのは、主にうつ病や双極性障害といった気分障害圏と統合失調症圏になりますが、悪性症候群やパーキンソニズムも症状が改善することは有名です。
適応条件は1次適応と2次適応があります。
① 1次適応
向精神薬を使用する前にECTの導入が検討される条件を指します。
1. 精神的・身体的に重篤で、迅速かつ確実な改善が必要な時
→自殺高リスク、身体衰弱、昏迷状態、錯乱・興奮・焦燥を伴う重症精神病
2. その他の治療のリスクがECTのリスクを上回る時
→高齢者、妊娠、身体合併症など
3. 過去に薬物抵抗性が示されている時、ECT著効歴がある時
4. 患者本人が希望する時
まず、気分障害や精神病圏による昏迷状態の場合はベンゾジアゼピン系を投与するのと同様にECT検討例になります。
また、個人的に面白いと思うのは「患者本人が希望する時」というものです。
けいれんの結果を見てみると、そこまで有効けいれんが得られてない場合でも、本人の感覚的に有効であれば、試す価値があると考えられています。
② 2次適応
薬物療法の後にECTの導入を考慮する条件を指します。
1. 薬物治療抵抗性
2. 忍容性と副作用の観点からECTの方が薬物療法より優先される時
→薬剤性パーキンソニズムなどが起こりやすい場合など
3. 急性増悪し、迅速かつ確実な改善が必要な時
やはり一番多いのは、薬物治療抵抗性症例でしょうか。
(4)禁忌・合併症
修正型ECTの最大のメリットですが、絶対的禁忌はありません。
相対的禁忌としては、次のようなものが挙げられます。
1. 重度の心血管疾患や動脈瘤・血管奇形を有している場合
2. 脳腫瘍など頭蓋内圧亢進するリスクを有している場合
4. 重度のCOPD、喘息、肺炎といった呼吸器疾患
要するに、脳機能・心肺機能に問題があればハイリスクということですが、それは他の手術でも言えることなので、あまり気にするべきではないと思います。
(5)有効性
① 気分障害
まず、気分障害に対する有効性ですが、抑うつ状態に対する有効性は非常に高いです。
躁状態にも有効ですが、抑うつ状態よりは治療回数を要することが多いように感じます。
また、社会機能やQOLの改善も見込まれており、食欲不振や意欲低下の改善もかなり期待できます。
個人的には、ここの改善が非常に助かります。
ここさえ良くなれば、退院が見込めますからね!
② 統合失調症圏
次に統合失調症圏ですが、残念ながら慢性的な幻覚妄想や陰性症状、認知機能低下には効果が乏しいとされています。
一方で、緊張病(カタトニア)に対しては非常に有効性が高いです。
緊張病状態は別に統合失調症圏のみで生じるわけでなく、気分障害圏、抗NMDA受容体抗体脳炎などの器質性精神疾患、ASDなどでも起こり得ます。
緊張病状態に対しては先述したように、まずはベンゾジアゼピン系を投与し、それでも効果不十分である場合に検討します。
また、興奮や意思発動性低下に対しても効果を期待できるので、急性期の統合失調症圏には選択肢として必ずECTは挙がってくると思います。
(6)後半へ
いかがでしたか?
ECTは非常に有効な治療法です。
後半では、具体的にECTの施行方法について説明したいと思います。