【第61回】「論語と算盤」を読んで
こんにちは、Dr. KKです。
今回は先日読ませて頂いた「論語と算盤」についてご紹介させて頂きます。
現代語訳が数種類出版されているので、下に貼っておきます。
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(1)基本情報
そもそも、本書を読むきっかけになったのは、ご存知の通り2024年から渋沢栄一が新1万円札に描かれるからです。
「日本の資本主義の父」と称される事が多い渋沢はみずほ銀行、東京ガス、東京海上ホールディングス、帝国ホテル、キリンビールなど様々な企業や財閥に携わってきた起業家だったのは有名な話ですが、彼がどういう思想の元で、日本の発展に尽力するようになったのか知りたくなりました。
(2)要旨
本書の要旨を掴むためには、題名の意味に着目すると分かりやすいです。
詳しくは後述しますが、幼少期に論語を学び、「論語=倫理や道徳」と「算盤=経済や利益」を両立させる事が正しい生き方だというメッセージになっています。
道徳は学校の授業でも学びますが、人生に結びついているようには思えません。
一方で自身の利益ばかり優先していると、他者への配慮が足りず傲慢になってしまいます。
渋沢栄一は
「経済を発展させ、利益を他人や社会に還元する事が重要」
と考えていました。
こうした理念から、1916年(大正5年)に本書を出版しました。
内容が現代社会にも通ずる部分が多く、現代語訳が現在も出版されており、いつまでも色褪せる事のない、大変な名著と言えます。
(3)歴史の流れから渋沢を紐解く
①尊攘派志士だった渋沢
まずは渋沢の半生を見ていきましょう。
渋沢栄一は1840年(天保11年)に現在の埼玉県に出生しました。
当時は江戸末期であり、実は渋沢は尊王攘夷論者であり、尊攘派志士として討幕を画策していました。
ただ色々な縁があって、何故か第15代江戸幕府将軍の徳川慶喜に支えることになります。
つまり、尊攘派志士を目指していた人がひょんな偶然で幕臣派に寝返ったというわけです。
② 近代化の衝撃
1867年(慶応3年)に慶喜の命令で、渋沢はパリで開催された万国博覧会に参加します。
そこで、欧米列強の目まぐるしい近代化に衝撃を受けたそうです。
ただ、帰国した時すでに倒幕しており、明治政府が発足していました。
帰国後、渋沢は大蔵省で働いていましたが、
「もっと民間企業に還元したい」
という思いから実業家に転身したそうです。
③ 蟹穴主義
その後の凄まじい実績から、大蔵大臣や日本銀行総裁のポストなど、何度か国政に復帰するよう打診があったようですが、いずれも固辞したそうです。
渋沢は「蟹穴主義」という理念を提唱しており、それを理由に固辞し続けたと本書で語っています。
蟹穴主義とは要するに
「分相応」「身の丈にあった場所で頑張っていく」
という意味です。
これは論語でも、
「進むべき時に進み、止まるべき時に止まり、引くべき時に引く」
と同様の内容が語られています。
猪突猛進で上を目指していくタイプは威勢は良いですが、大きな間違いを冒す可能性があるので、自分の身の丈を常に考えてベストを尽くすのが最善ということです。
己の力を過信して高みを目指していた時期が自分にもあったので、これは耳が痛い名言でした。
④ 日本人の思想
渋沢が活躍した時期は日本が近代化を目指した明治時代のため、若者たちの間では「とにかく金を稼ぐ」という風潮となっており、江戸時代を席巻した儒教の倫理や道徳というものが廃れつつありました。
しかし大正時代には、近代化によって先進国への仲間入りが達成され、もう一度倫理観や道徳心が脚光を浴びるようになったのです。
そんな時期に出版されたのが「論語と算盤」だったため、ベストセラーとなったのです。
⑤ 渋沢はなぜ論語を重用したのか?
「論語は長年多くの賢者を輩出している名著」であると遺しています。
確かに、古くは聖徳太子から始まり、徳川家康、二宮尊徳、新渡戸稲造など、多くの日本のリーダーが論語を愛読していたとされています。
つまり、論語で書かれている儒教=倫理や道徳こそ、今日に至るまで日本人の品性の根幹を築いていると言っても過言ではありません。
一方で、論語を重用した別の理由として
「論語には神の概念がなく、日本人に浸透しやすかったから」
というものがありました。
バイブルと言えば聖書ですが、一神教という考え方はどうしても日本人にはしっくり来ないと思います。
一方で、論語は神という概念を語ることなく、普遍的な人間と社会の本質が表現されています。
(4)感想:人間の正しい生き方が書かれている
現在もなお多くの方に愛読されている本書ですが、論語をベースとした理念と経済の両立・中庸を重んじているので、何度も唸らされると思います。
「人間とはどう生きていくのが正しいのか」という指針を提示してくれているような、そんな内容ですので、ぜひ一読してみてください。
必ず今後の「バイブル」になると思います。