【第57回】神経性やせ症①:総論
こんにちは、Dr. KKです。
今回は神経性やせ症の総論についてまとめようと思います。
(1)摂食障害とは?
まず、摂食障害の病型分類をDSM-5で確認すると、以下のようになります。
① 神経性やせ症
・制限型
・過食 排出型
② 回避 制限性食物摂取症
③ 神経性過食症
④ 過食性障害
このうち、①と②は体重減少をきたし、③と④は正常体重〜むしろやや体重増加がみられることが多いとされています。
しかし、1症例の中でも次々に病像が変化していくことも多いので(Cross-Overと言います)、こうした病型分類は治療の役には立たないという意見もあります。
今回は、最もポピュラーなのは神経性やせ症なので、今回は神経性やせ症をピックアップしていきます。
(2)神経性やせ症とは?
英語ではAnorexia Nervosa(AN)と言います。
病的なるい痩に加え、体重増加や体重維持の拒否、さらなる痩せ願望や体重増加への恐怖、自己評価に体重や体型が大きく影響し、低体重の危険を否認するような状態です。
Body Image(視覚的自己像・恐らく他者像も障害されています)の認知処理機構や食欲調節機構の機能失調、性格変化もよく挙げられる症状ですね。
既に病的に痩せているのに、本人は
「まだまだ。ここに脂肪がついている」
などと言って、二の腕の皮膚を引っ張ったりします。
食欲調整機構の機能失調の患者さんは、
「お腹が空いているのか、もうお腹一杯なのかが分からなくなった」
という事があります。
規則正しい食事を重ねていくことでこうした機能失調はある程度改善してくるのですが、この機能失調によって食事摂取量がなかなか改善しない事が多いです。
なお、気分障害(うつ病など)、強迫症、社会不安症といった他の精神疾患を合併する場合もあります。
ある患者さんで、割と経過良好で3ヶ月程度で退院できた女性がいたのですが、数ヶ月後に上京して、飛び降り自殺をしたと警察から連絡があった事があります。
かなりショックだったのですが、やはり気分障害の合併も多いなと感じました。
※昔は「無月経」も診断基準に入っていたのですが、個人差が大きい身体症状であるため、DSM-5からは外れました。
こうした症状が遷延することにより、二次的に身体機能・社会機能・心理機能に大きな障害を生じてしまいますが、本人の病識が乏しいことが多く、医療機関の受診を拒否する場合が多いです。
① 疫学
男女比は1:9です。
今まで男性の神経性やせ症の人は1例しか見た事がありませんが、その人は発達特性がかなり強く、筋肉質な体型への強い拘りが強く、痩せて筋肉が表面化することで満足感を得てしまう人でした。
まあ、そういう症例もごく稀にいますが、大抵は女性です。
また、15〜22歳の女性の約1%が罹患すると言われています。
思った以上に多い印象ですね…
1%となると、統合失調症の発症率とほぼ同等ですね。
10年死亡率はなんと5%、一般人口と比較した自殺率は56.9倍となっています。
指導医には「最も生命予後の悪い精神疾患」と習いました。
つまり、たかが痩せ、と考えるのは危険だということです。
② 推察される病態
遺伝的素因に発達過程、特に思春期に伴う身体的・心理的変化や文化社会的背景が強く関与しているとされています。
思春期の文化社会的背景となりうるのは、やはり家庭と学校生活なので、やはり本疾患の背景にはこうした人間関係における認知構造の歪みが原因になるようです。
なお、発症後の飢餓状態は中枢神経系に影響を与え、症状・障害を固定化してしまうため、なるべく早期のうちに対応していく必要があります。
③ ミネソタ飢餓実験
よく摂食障害の患者さんに、
「痩せると誰でもみんな同じような状態に陥ってしまう」
例として挙げる内容なのですが、1944年から約1年間に渡ってアメリカのミネソタ大学で行われた人体実験が衝撃的なので、この記事でも書こうと思います。
第二次世界大戦中、アメリカはナチスドイツに収容されていたユダヤ人を救出するための準備を行っていました。
その時、
「おそらく収容されているユダヤ人は極度のるい痩状態だろう」
「極度のるい痩患者は一体どんな心理状態・身体状態なんだろう…」
というデータが乏しかったのです。
そこで、退役軍人から志願者を募り、100人の屈強な男性に対して24週間の食事制限を行い、25%のやせを負荷しました。
すると、被験者の多くが聴覚過敏・倦怠感・規範意識の低下・過活動・将来への展望喪失・興味関心の低下・抑うつ・不安焦燥・性欲減退を自覚したそうです。
これにより、るい痩状態の時は誰もが同様の症状に苦しむことになる事が証明されました。
今回はこの辺で終わろうと思います。
次回は症候や治療について考えていきたいと思います。