【第38回】パーソナリティ障害①:総論
こんにちは、Dr. KKです。
今回はパーソナリティ障害の総論についてまとめてみようと思います。
今後は精神疾患についてまとめた記事もどんどん紹介していきたいと思います。
(1)おすすめ書籍
名著をご紹介させて頂きます。
岡田 尊司先生の名著「パーソナリティ障害」です。
この書籍はパーソナリティ障害について非常に簡潔にまとめられています。
一般の方にも読みやすい表現が多く、パーソナリティ障害を学習するための最初の本としてはNo.1です。
(2)著者紹介
岡田 尊司先生はパーソナリティ障害の第一人者の一人です。
東京大学文学部哲学科を中退後、京都大学医学部を卒業、同大学大学院医学研究科を修了されています。
幼い頃から
「人はどう生きるべきか?」
「どうすればその人自身を活かせるのか?」
「本当の自分、本当の幸福に出会えるのか?」
という疑問を抱き、哲学の道に進んだものの、抽象的な思考の世界に居続けることだけが本当に生きることではないと思い、一念発起して医師の道へ進路変更したようです。
医療少年院での臨床経験もあり、パーソナリティ障害や発達障害に対する関心が深く、パーソナリティ障害や現代社会が抱える自己愛性をテーマにした著作を次々と出版されています。
最も重視しているのは親子関係や社会の自己愛性だそうです。
後述していますが、自己愛の歪みがあらゆるパーソナリティ障害に影響を与えているようです。
(3)パーソナリティ障害とは?
① 縦断的評価
まず、DSM-5の全般的基準では以下のように定められています。
A. その人の属する文化から期待されるものより著しく偏った、内的体験および行動の持続的様式。この様式は以下のうち2つ(またはそれ以上)の領域に現れる。
① 認知(すなわち、自己、他者、および出来事を知覚し解釈する仕方)
② 感情性(すなわち、情動反応の範囲、強さ、不安定さ、および適切さ)
③ 対人関係機能
④ 情動の制御
B. その持続的様式は、柔軟性がなく、個人的および社会的状況の幅広い範囲に広がっている。
C. その持続的様式は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
D. その様式は、安定し、長時間続いており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期にまでさかのぼることができる。
E. その持続的様式は、他の精神疾患の表れ、またはその結果ではうまく説明されない。
F. その持続的機式は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:頭部外傷)の直接的芯生理学的作用によるものではない。
パーソナリティ障害とは、偏った考え方や行動パターンのために、家庭生活や社会生活に支障をきたしてしまう状態です。
全般的な特徴としては、
「自分に強いこだわりを持っている」
「とても傷つきやすい」
の2点が挙げられます。
つまり、過剰なくらい自分に期待してしまい、それゆえに失敗した際は通常以上に傷つきやすいということです。
また、3点目として、
「対等で信頼し合った人間関係を築くことの障害」
という特徴も挙げられます。
パーソナリティ障害は、思い通りにならない他者を別の意志と感情を持った存在として認められません。
本来の意味での他者との関係が育っていないため、自分の思い通りになる存在だけを愛し、思い通りにならない存在は攻撃の対象になってしまいます。
つまり、利害関係のみで他人を判断してしまい、自分の利益にならない人間を平気で切り捨ててしまうような感じです。
ちなみに、個人的な臨床経験ですが、殆どの境界性パーソナリティ障害の患者さんは初診時に
「私、つい悪い事とかしちゃうんですよねー、うふふ」
「むしゃくしゃすると人の宝物を壊したりとか」
「イライラするとリストカットしたりとか」
といった発言が多い印象です。
まるで、
「私、何するかわからない人よ」
「私を舐めると痛い目遭うよ」
とある種の威嚇のような印象を受けます。
恐らく初対面の僕を警戒し、こちらの反応を窺っているのではないかと考えています。
なので、あまり反応せず、
「そうなんですね。」
「他はどんなことをしてしまいますか?」
と毅然とした態度で、かつ支持的な対応を心がけています。
② 疫学的特徴
・性差:反社会性パーソナリティ障害など一部の例外を除いて、ほとんどのパーソナリティ障害は女性に多く診断されています。
・原因:遺伝因子よりも環境因子の方が影響力が強いと報告されているようです。
→例えば、家庭や対人関係の問題、学校や職場への不適応の問題などが環境因子として影響を及ぼしていると考えられています。
・有病率:アメリカの研究によれば,米国成人のおよそ15%がパーソナリティ障害を持つとされています。
→ネット環境が普及するにつれて、正常に対人関係を構築できない人が増えているのも一因かもしれません。
・好発年齢:青年期または成人期早期に始まるとされており、18歳未満にパーソナリティ障害の診断を下すには,特徴が1年以上持続している必要があります。
→成人期中期または後期にパーソナリティ変化が生じた場合は、他の医学的疾患によるパーソナリティ変化、または物質関連障害の存在の可能性を十分評価することが必要です。
・増悪:重要な支持的人物 (例:配偶者)または以前に安定化作用のあった社会的状況(例:仕事)を失った後に悪化することがあるとされています。
(4)自己愛
パーソナリティ障害は、健全な自己愛が育まれず歪んでいます。
そもそも自己愛とは「自分を大切に出来る能力」であり、健全に自己愛が育まれていると、人生で多少嫌なことがあってもすぐに命を絶ったり、絶望しないで生きることができるのです。
自己愛が適切に育まれなかった場合、自分を大切にすることができず、些細な事で自傷行為に及んだり、場合によっては命を絶ってしまいます。
こうした自己肯定感の乏しさによって、境界性パーソナリティ障害のように自己愛が損なわれたり、逆に自己愛性パーソナリティ障害のように弱さや傷つきやすさを何とか補おうと過剰に自己愛が肥大してしまいます。
こういった偏った考え方や行動パターンは、幼少期に満たされなかった欲求を紛らわせるために不適切に身につけたものとされています。
パーソナリティ障害に対面するとかなり子供っぽい印象を受けますが、それは子供時代の課題を乗り越えておらず、大人になっても子供のような行動をとってしまうからとされています。
本書では、
「親が子供に与えてやれる最も大切で、かけがいのないものは自分を大切にする能力だと思う」
としています。
(5)子供が健全に育つために必要な環境
先ほども述べたように、環境因子がかなり人格形成に影響するのですが、時期によって育まれる部分が異なるようです。
① 満2歳ごろまで
この時期は「愛着と保護」を育むことが重要です。
つまり、自分が安全に守られた存在で、より大きな存在としっかり繋がっているということを心と体のどちらとも身につけることで人格形成が行われるという事です。
本書では、
「掛け値のない愛情を注いでもらえず、必要な共感と"抱っこ”を与えられなかった時、自我の連続性の発達は損なわれ、"本当の自己”とは別の"偽りの自己”に分裂を起こす。」
と述べています。
② 1歳半〜3歳ごろ
この頃からは徐々に「母子分離」を始めることが必要とされています。
つまり、子供の欲求を程よく満たしつつも基本的には見守って、同時に徐々に手から離していくべきであり、溺愛されすぎることはあまり良くないそうです。
溺愛されすぎると母子融合が続いたままとなり、小さな傷つきに耐え、忍耐力や自己制御能力を養うという段階が損なわれるからです。
またこの時期に「対象恒常性」が発達します。
乳児期の子供と母親は、一瞬一瞬の場面で欲求を充足してくれる関係(部分対象関係)にすぎません。
しかし成長するにつれて、徐々に1人の同じ母親とのトータルな関係(全体対象関係)として受け止めるようになります。
パーソナリティ障害では全体対象関係の発達が不十分で、容易に部分対象関係に後退しやすく、一つの母親として繋がらずに分裂しているようです。
原因としては、十分に子供へ愛情を注がなかった以外にも、母親の病気や死別などが挙げられます。
(6)感想
以上が、ざっくりとしたパーソナリティ障害の総論です。
娘を持つ僕としては、
「父親と母親の影響度はどの程度差異があるのか?」
という点については知りたかったです。
とはいえ、全体的には非常に簡潔で、初心者も内容把握しやすい表現でした。
パーソナリティ障害のタイプ別の内容はまた別の記事でまとめていこうと思います。