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【第23回】自殺企図患者への対応について考えてみる

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精神科医は必ず経験する症例

 

こんにちは、Dr. KKです。

今回は重たいテーマですが、「自殺企図患者への対応」について考えていきたいと思います。

救急搬送を受け入れている病院だと割と遭遇しやすい症例だと思います。

 

ただ、退院までの対応がなかなか悩ましい部分が多々あり、受け入れをお断りしている病院も少なくないかと思います。

自殺企図患者に対する対応や、僕自身の考えを書いていこうと思います。

(1)統計

まずは、自殺企図の客観的データから見ていこうと思います。

 

① 自殺者数(昭和53年〜令和2年)

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コロナで再び増加傾向@警察庁

まずは、自殺者数の推移を見ていきます。

平成は自殺者3万人台が長く続いていましたが、徐々に環境整備が整うことで減少傾向となり、昨年度はコロナによる困窮で増加しましたが、まもなく2万人の大台を切りそうです。

 

未だに自殺者は増加傾向、3万人台だと思っている方も多いかと思います。

日本は緩徐ではありますが、良い方向へ進んでいるという事です。

ちなみに性差は2対1で男性の方が圧倒的に多いです。

 

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10月が最も多く、2月が最も少ない

続いて月別の自殺者数を見ていきます。

年によっても多少偏りがありますが、3月や10月頃に自殺者が増加し、2月に減少しています。

 

本当の原因は分かりませんが、恐らく季節の変わり目・年度や学期の変わり目に多いように思います。

やはり、環境変化が人の精神面に大きく影響しているのでしょう。

 

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20代以降は年代に関係なく完遂している

続いて、年代別の自殺者数を見ていきます。

40〜50代が最も多く自殺していますが、80代以降も40〜50代の2/3を占めており、そこまで年齢は関係ないように思えます。

 

強いて言えば、社会的地位を約束されていた40〜50代の人が、リストラや定年を前に自身の存在価値に思い悩み自殺している可能性や、徐々に健康面で問題を抱え始めた方が自殺している可能性が考えられます。

 

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無職者が最多、次点は被雇用者

最後に職業別の自殺者数を見ていきます。

無職者が半数を占めており、時点で被雇用者が来ています。

要するに、経済的問題は自殺理由になりやすいという事でしょう。

 

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東日本大震災の後遺症に苦しんでいる人が未だにいる事を知って欲しいです

一つだけ、皆さんに知って頂きたい事として、2011年3月11日の東日本大震災による後遺症を苦に自殺されている方が未だに存在しています。

特に福島県は1000年に1度の大地震と史上数える程しか生じていない原発事故を同時に経験した唯一の県です。

 

2年前まで10人以上自殺者が続いていたのです。

他県の人にとっては、既に風化した出来事かもしれませんが、彼らにとっては今でも生きる事の障壁となっている出来事なのです。

 

またいつか、DPAT災害派遣精神医療チームについても記事にしてみようと思います。

※この漫画では東日本大震災によりPTSDを発症した患者さんのストーリーが描かれています。気になる方はぜひご覧になってください。

 

 

次は下記の自殺未遂者について見ていこうと思います。

 

② 自殺未遂者(2016年)

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若者の自殺未遂者数は増加の一途を辿っている

2016年の調査では1年間の自殺未遂経験者は、なんと53.5万人もいます!

多すぎる…ほぼ全員病院へ搬送されていると考えると、自殺問題という面だけでなく、医療費の面でもかなりの金額が費やされている事になります。

ちなみに性差は男性が26.4万人、女性が27.1万人と若干女性が多いです。

企図者は殆ど同数で、既遂者は男性の方が多いのは、やはり男性の方が力が強く、致死的な行為が行いやすいのだと思われます。

 

年齢別では、圧倒的に若者の企図数が多いです。

既遂者数は40〜50代が多く、企図者数は20〜30代が多いのは、やはり若者の方が環境変化の頻度が多く、また頻回に利用しているSNSの影響を受けやすいのではないでしょうか?

(これはあくまで個人的な考察です)

 

③ 自殺の危険因子と保護因子

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精神科医以外の先生方にも知って頂きたい自殺原因

続いて自殺の原因となりうるものを見ていきます。

やはり危険因子には多くの可能性がありますが、保護因子には家族や周囲の人間との関わり合いが重要であることが示唆されます。

 

④ 自殺と精神疾患の関係

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自殺既遂者の98%は精神疾患を抱えている @Bertolote ら(2004)

 

続いて自殺と精神疾患の関係を見ていきます。

Bertolote ら(2004)の研究では、自殺既遂者の98.0%は精神疾患を抱えており、内訳としては気分障害 30.2%、物質関連障害 17.6%、統合失調症 14.1%、パーソナリティ障害 13.0%と報告されています。

 

また、山田ら(2007)の研究では、自殺企図による入院患者320人のうち、81%はⅠ軸診断に該当し、14%はⅡ軸診断に該当したと報告しています。

 

それから、黒木ら(2009)の研究では、自殺既遂者324人の63.8%(207例)は精神科・心療内科受診歴がないと報告しています。

 

つまり、殆どの自殺企図者は精神疾患患者であり、3人に2人は精神科を受診していないということです。

周囲の人間がもっと気づいてあげる必要があり、またもっと精神科への受診を勧めてあげる事が重要となりそうです。

 

(2)自殺企図者に対するアプローチ

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自殺企図者には聞きにくい事も聞いていくしかありません

ここからは、自殺企図者に何を聞くべきなのか見ていきましょう。

前提として、精神科医の診察は全身状態が安定した後となります。

 

まずは、「自殺しようとしたのか?それとも事故なのか?」を明確にします。

以前、リストカットで搬送された方で事故と判明した事があります。

本人は真実を述べていない可能性もあるので、現場を目撃した人にも事情を聞く必要があります。

事情を詳細に聞くことで、企図に至った原因や現在の病相が徐々に明らかになっていきます。

 

次に、「明確な希死念慮があったのか?」を確認します。

これは経験則ですが、Ⅱ軸診断の患者には

「なんとなく死のうと思った」

「パートナーと喧嘩した」

といった、漠然とした感情や衝動による企図が多く見受けられ、企図理由を具体的に言語化できない方が多いように感じます。

 

一方でⅠ軸診断の患者は、より致命的な自殺方法を方法を選択している事が多いイメージがあります。

 

家族や知人にも事情を聞き、患者本人の希死念慮の程度を確認します。

自殺方法や企図歴も重要な評価基準になります。

 

最後に、「再企図しない事が約束できるか?」を確認します。

重症患者は約束できないばかりか、「ごめんなさい」と謝り続けたり、「なんで死なせてくれなかったのか!?」と怒り出す人がいます。

この場合は絶対に帰宅させられないので、そのまま入院するか精神科病院への転院となります。

 

またこの場合、本人の入院意志は得られない事が殆どであるため、医療保護入院となる事が多いです。

入院後は、薬物治療や電気けいれん療法などによる加療を行います。

治療経過については今回は割愛します。

 

(3)感想

いかがでしたか?

自殺企図の症例は今後も遭遇するかと思います。

今後再企図しないように専門機関に繋げていく」ことが僕らの役割だと思っています。

精神科医の使命として頑張っていきます。